はじめに
採用時には期待されていた人材が、配置後には思うように機能しない。
昇格後に期待した役割を果たせない。
ある部署では高く評価されていた人が、環境が変わった途端に力を発揮できなくなる。
こうした現実は、決して珍しいことではありません。むしろ多くの企業で、人材判断のズレとして繰り返し起きています。
その背景にあるのは、人を固定的に捉える見方の限界です。 今、必要なのは、その人の強みや行動特性を固定的に見ることではなく、 どのような条件で力が発揮されるのかを捉える視点です。静的な診断から、動的な診断へ。 この転換が、人と組織の可能性をより正確に見極める前提になっています。
1. 人材判断が外れ続ける理由
採用時には期待されていた人材が、配置後には思うように機能しない。昇格後に期待した役割を果たせない。 ある部署では高く評価されていた人が、環境が変わった途端に力を発揮できなくなる。こうした現実は、決して珍しいことではありません。むしろ多くの企業で、人材判断のズレとして繰り返し起きています。
そのたびに私たちは、本人の努力不足や経験不足、あるいは意識の問題として片づけがちです。 しかし、本質はそこにはありません。問題の根底にあるのは、人を「固定的」として捉える静的な見方、 すなわち、「人は基本的には変わらない」という考え方にあります。
2. これまでの診断が前提としてきたもの
これまでの人材評価や適性判断は、性格や傾向を比較的固定的なものとして捉え、「この人はこういう人である」という「固定的」を前提で行われてきました。 この見方は、環境や役割が大きく変わりにくかった過去の時代には、ある程度機能してきたと言えます。
しかし現代のVUCAの時代は、外部環境だけでなく、内部環境の含めて大きく変化しました。特に、事業環境も組織構造も、役割期待も絶えず変化しています。
昨日までの正解が、今日の現場では通用しないことも少なくありません。リーダーのみなさんは、これを日常的に感じているのではないでしょうか。
そのような時代において、人を固定値として理解しようとするだけでは、現実に対応できなくなっています。
3. 人は固定された特性だけで動いているわけではない
人は、性格だけで行動しているのではありません。思考の癖、感情の動き、価値観、仕事観、置かれている役割、周囲との関係、組織の状態。 こうした複数の要素が重なり合って、初めて行動として現れます。
つまり、同じ人であっても、置かれる環境や任される役割が変われば、発揮される力も変わります。 ある場面では強みとして機能していたものが、別の場面では成果に結びつかないこともあります。 逆に、これまで目立たなかった特性が、新しい環境では非常に大きな価値を生むこともあります。
長年、人事の現場で多くの従業員を見てきて強く感じたのは、同じ人であるにもかかわらず、ある部署では評価がDであった人が、 異動先の部署ではA評価に変わることがあるということです。反対に、A評価だった人が、異動や昇格をきっかけにD評価になることも珍しくありません。 心理的な内部構造への理解が浅かった頃は、その原因を本人の能力や意識の問題として捉えがちでした。
しかし実際には、個人の中身が急に変わったのではなく、その人の内部構造が、どの条件でどう発現するのかを見誤っていたのです。 人材判断のズレとは、まさにそこから生まれます。これは怖いです。
※ 内部構造の用語解説は、▶ 内部構造をご覧ください。
4. 「強み」は固定された能力ではない
企業ではよく、「強みを活かすことが大切だ」と言われます。しかし実際には、その強みが何を意味しているのかを明確に整理しないまま使われていることが少なくありません。
「強み」は、単に優れている性質や、いつでも発揮できる能力を意味するものではありません。 「強み」とは、ある条件のもとで、成果に結びつく形で再現性を持って発揮されるものです。 言い換えれば、強みとは固定されたラベルではなく、条件付きで機能する力であり、仕事で成果が出せる性質です。
この視点がないままでは、「この人の強みはこれだ」と決めつけても、配置や役割が変わった途端に期待が外れます。 強みを本当に活かすためには、その人の強みそのものを見るだけでは不十分であり、その強みがどのような条件で発揮されるのかまで理解しなければなりません。
5. 弱み中心の評価では成果は生まれにくい
人事評価や育成の現場では、これまで「弱みをいかに克服したか」が評価されやすい傾向がありました。これはグローバル企業の人事制度にもありました。 もちろん、改善の努力自体を否定する必要はありません。しかし、弱みの克服そのものを評価の中心に置く考え方は、現代の人材活用としては限界があります。
なぜなら、成果を生み出しているのは、弱みを平均的に改善した人材ではなく、自分の強みを成果に変換できた人材だからです。 弱みを直すことによって一定の安定性は得られても、それだけで突出した価値が生まれるわけではありません。これは企業や組織についても同様ではないでしょうか。
特に、すべての弱みを丁寧に埋めようとすると、本人の時間もエネルギーも分散しやすくなります。
その結果、全体としては整っていても、その人ならではの価値が見えにくくなることがあります。
強みが活きる前に、平均化が進んでしまうのです。
6. 花を大きく咲かせるために必要なこと
ある花農家の方が、印象的な話をしてくれました。
大輪の花を咲かせるためには、生育の途中であえて余分な花を切り落とす。そうしなければ養分が分散し、どの花もそれなりに整うが、際立った花にはならないという話です。
一見すると、すべての花を均等に育てた方が良いように思えます。しかし実際には、限られた養分をどこに集中させるかによって、最終的な価値は大きく変わります。
組織も人材においても同じです。ここでは人材で考えてみると、すべてを平均的に伸ばそうとすると、確かにバランスの良い人材にはなります。 しかし、突出した成果を生み出す人材にはなりにくくなります。一方で、その人の強みに資源を集中させれば、その人ならではの価値が明確に発揮されるようになります。
重要なのは、何を伸ばすかだけではありません。どこに資源を集中させるかという設計です。
7. いま求められる「選択と集中」の意味
これは、いわゆる「選択と集中」の考え方にも通じます。 ただし、ここでいう選択と集中は、過去のように一度決めた対象に固定的に資源を投下し続けることではありません。
現代において求められるのは、「強み」を軸にしながら、状況に応じて形を変え続ける柔軟な集中です。 リソースが限られている以上、何かに絞ること自体は不可欠です。しかし、その絞り方まで固定的であれば、変化の激しい環境には適応できません。
企業経営でも、自社の強みを見直しながら、事業の軸や資源配分を再設計してきた企業が生き残ってきました。 人材活用も同じです。一度決めた「この人の強み」に固執するのではなく、その強みがいまの環境でどう活きるのかを見直し続けることが必要です。
つまり、強みを見つけることがゴールではありません。強みを軸に、どう集中し、どう活かし方を変えていくか。 その設計こそが、これからの人材マネジメントの中核になります。
※ 選択と集中の用語解説は、▶ 選択と集中(Wikipedia)をご覧ください。
8. 弱みはどう扱うべきか
ここで誤解してはならないのは、「弱みはすべて無視してよい」ということではないという点です。 弱みの中には、放置すると本人や組織に大きなリスクをもたらすものもあります。たとえば、対人トラブルを繰り返す、責任ある役割で判断を誤りやすい、 信頼を著しく損なう行動傾向がある、といった場合は、当然ながら対処が必要です。
ただし、それでもなお、評価や育成の中心を弱みに置くべきではありません。弱みの多くは、強みの裏返しとして現れている場合もあります。 重要なのは、弱みを人格の欠点として捉えるのではなく、条件が合わないときに起こるリスクとして理解することです。
致命的な弱みはリスクとして管理し、必要に応じて改善する。しかし、それ以外の多くは、配置や役割設計、周囲との補完関係によって十分に扱えることもあります。 その上で、本人の強みを成果に結びつけることにエネルギーを使う方が、はるかに健全で効果的です。
9. 静的な診断では見えないもの
ここまでの話を踏まえると、従来の静的な診断の限界が見えてきます。
静的な診断は、「この人はこういう特性を持っている」と示すことはできても、その特性がどのような条件で活きるのか、
あるいは機能しなくなるのかまでは十分に捉えられません。
しかし実際の人材活用で必要なのは、そこです。経営陣も管理職も人事も、本当に知りたいのは「この人はどんな人か」だけではありません。 「この人は、どのような条件で力を発揮するのか」「どのような環境では価値が発揮されにくいのか」「どのような役割で成果につながりやすいのか」 ということのはずです。
つまり必要なのは、固定的な特性を見る診断ではなく、発現の構造を見る診断です。
10. これからは「動的な診断」が必要になる
動的な診断とは、人を変化する存在として捉え、性格、感情、思考、価値観、行動特性、役割、環境との相互作用の中で理解しようとする見方です。
この視点を持つことで、なぜ同じ人が環境によって高く評価されたり、逆に機能しなくなったりするのかが見えてきます。 なぜ採用時には魅力的に見えた人材が、配置後にうまく力を発揮できないのか。なぜ昇格後に期待とのズレが生じるのか。その理由は、能力の有無だけではなく、発現条件の設計にあることが理解できるようになります。
人は固定された存在ではありません。だからこそ、診断もまた固定的であってはならないのです。
11. 人材活用の時代は、見極めから設計へ
これからの時代に求められるのは、「誰が優秀か」を見極めることだけではありません。 それにプラスして、その人の内部構造を理解し、どのような条件で強みが発揮され、どのような状況で弱みが問題化するのかを捉えた上で、 役割や配置や育成を設計することが必要になります。
静的な診断から、動的な診断へ。この転換は、単なる診断手法の変更ではありません。人をどう見るか、人材をどう活かすか、組織として何に資源を集中させるかという、人材マネジメントの思想そのものの転換です。強みを発見し、強みを活かし、成果を出し、組織に貢献する。その流れを本気で実現したいのであれば、いま必要なのは、 人を固定的に評価することではなく、人が力を発揮する構造を見抜くことです。
現代の人材活用は、その視点なしには語れない時代に既に入っています。
このコラムの続きは、 ▶ 強みを誤解すると、人は能力ではなく環境で潰されるをご覧ください。
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性格特性だけでは見えない、感情・思考・行動・仕事観、さらに、エンゲージメントまで含めて把握することで、 人材の「強みの発現条件」をより立体的に捉えることができます。
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