タレントマネジメントが失敗する最大の課題とは
人を「理解すべき存在」ではなく、 「管理対象」として扱ってしまう構造そのもの にあるのではないでしょうか。
これは、制度設計やタレントマネジメントシステム導入の巧拙の問題ではありません。
タレントマネジメントに向き合う際の取り組みマインド、思想の問題です。
日本企業で繰り返されてきた人事制度導入の失敗
日本企業はこれまで、米国企業を中心に多くの人事制度を輸入してきました。
成果主義、目標管理制度、1on1、評価制度の高度化など、枚挙にいとまがありません。
少し前になりますが、コンピテンシー制度やコア・コンピタンスも、その代表例でしょう。
高い成果を出している社員、いわゆるハイパフォーマーの行動や能力を抽出し、
「全員がそれを身につければ、組織全体の成果が上がる」という思想のもと、
多くの企業が導入しました。
しかし結果はどうだったでしょうか。
多くの企業で制度は形骸化し、途中で頓挫し、
最終的に残ったのは「制度を作った」という事実だけでした。
致命的だったのは、
制度を導入すること自体が目的化してしまったことです。
成果を上げている社員の行動を真似ても、
「なぜ、その人はその行動を取るのか?」
という why(内的要因) が理解されないまま導入・運用されました。
実際には、模範とされた本人でさえ、 自分が成果を出せた理由を構造的に分析し、 人材要件として言語化できていたわけではありません。
同じ失敗が、今のタレントマネジメントで起きていないか
現在、日本ではタレントマネジメントの導入が急速に進んでいます。
しかし、その多くが制度や仕組みを整えること自体に
必死になってはいないでしょうか。
このまま進めば、タレントマネジメントは、
かつてのコンピテンシー制度と同じ運命を辿る可能性が極めて高い
と言わざるを得ません。
タレントマネジメント導入で最も欠けているもの
では、導入における本当の課題は何でしょうか。
一言で言えば、
事業戦略はあっても、
その戦略を実現する人材像が明確に言語化されていない
ことです。
言い換えれば、
人を理解し、説明できていないまま、
人材配置や役割・職務を決めている
という状態です。
多くの組織で実際に行われている 昇格・昇進の検討、人事評価、人事異動は、 次のようなプロセスです。
- 社員の顔写真やプロフィールを眺める
- 経験や実績、過去の評価を確認する
- スキル情報を一応は参照する
しかし一方で、
- その人の本当の強みが分からない
- モチベーションの源泉が分からない
- 思考のクセが分からない
- 判断のクセが分からない
- 感情の揺れやすさが分からない
- 行動が再現される条件が分からない
こうした人の内部構造を、 そもそも把握していないケースがほとんどです。
その結果として、
- 配置は会社の期待や希望的観測で決まる
- 育成は画一的な研修に偏る
- 評価は上司の裁量に大きく依存する
これは果たしてタレントマネジメントでしょうか。
実態は、高度化した人事管理システムに
とどまっているケースが少なくありません。
原点に戻る:タレントマネジメントの定義とは何か
ここで一度、原点に立ち返る必要があります。
タレントマネジメントとは何か。
この言葉が世に知られるようになって、すでに25年近くが経ちました。
米国にも日本にも、公式な単一定義は存在しませんが、
実務の世界では事実上の共通理解に収束しています。
それが、次の定義です。
Talent Management is a systematic process of attracting, identifying, developing, engaging, deploying, and retaining individuals whose capabilities are critical to achieving the organization’s strategic objectives.
日本語にすると、
タレントマネジメントとは、組織の戦略目標を達成するうえで重要な能力を持つ人材を対象に、
採用し、見極め、育成し、意欲を引き出し、適切に配置し、定着させていくための、
一貫した仕組み・プロセスである。
この定義は、SHRM、CIPD、Bersin by Deloitte、McKinsey、BCG、Mercer、
そして米国主要MBAプログラムにおいて共通理解として用いられています。
おわりに
人の強みと特性を活かすためには、
まず人の内面を正しく理解し、
人について戦略的な経営判断ができる状態をつくることが不可欠です。
それこそが、タレントマネジメントの本質的な目的であり、
それができなければ、どれほど高度な制度も
いずれ形骸化していくでしょう。
※ 人の内部構造をどのように可視化し、
タレントマネジメントに活かすのかについては、
5Dプロファイル診断の解説ページをご覧ください。