1. 問題提起に対する基本的な考え方
問題提起した「次世代リーダーの選任は、なぜ繰り返し外れるのか」に対する対応を検討してみます。
人的資本経営を実装するために必要なのは、人事制度の整備や評価よりも、
経営者が持つ“人材への期待値”を、人事が戦略・目標達成に必要な人物像として構造化し、言語化することです。
戦略は経営が定めます。事業計画も定めます。
しかし、その戦略を実行し、組織を機能させるために、「どのような人物が必要か」が構造として定義されていなければなりません。
ここが最大の実務上の分岐となります。
2. 第一段階:戦略と組織機能の接続
戦略は方向性です。しかし方向性だけでは、組織は期待通りには動きません。
戦略はまず、組織機能に分解されなければなりません。
ここは問題ないと思いますが、明確な存在意義と価値、意味が明確に定義されているかです。
成長戦略であれば、事業創造機能、変革推進機能、意思決定のスピードが重要になります。
安定戦略であれば、統制機能、再現性、品質管理、調整能力が重要になります。
ここで明確にするのは、「組織をどう機能させたいのか」という経営の意図です。
戦略と組織機能が接続されなければ、求める人材像は曖昧になります。
3. 第二段階:組織を機能させる“長”の定義
組織を機能させるのは、その組織の長の存在です。
課長や部長、事業部長や担当役員。肩書きではなく、組織を機能させる中核としての“長”です。
ここで問うべきは、「その長に何を期待するのか」です。
成果だけでは不十分です。組織をどう動かすのか。どのような判断基準で意思決定するのか。リーダーシップやマネジメントは。 そして、どのような状態を組織に生み出すのか。
役員としては期待値を明白にさせて、その長が具体的な仕組みや機能を定義します。
ここを明確に言語化しない限り、次世代リーダーの登用や昇格は成果依存になり、昇格後の機能不全が起きます。
4. 第三段階:経営の期待値を「求める人材像」として構造化する
ここが中核です。
経営者は必ず「こういう人物がほしい」という期待値を持っています。しかしそれは多くの場合、暗黙知のままです。
人事の役割は、その期待値を解釈し、戦略・目標達成に必要な人物像として構造化し、言語化することです。 構造化とは、単なる仕事の分類ではありません。職掌があるから大丈夫ではありません。 これは、あくまでも職務を基準にしたやるべきことの定義であり、 求める成果であり、求める人物像ではありません。
求める人材像とは、次の構造で明確にします。
- 仕事観では、何を優先する人物か。やる気の源泉は何か。何を正しいと判断する人物か。経営の方向性と一致しているか。
- 思考特性では、どのように問題を捉え、どのように意思決定する人物か。変革局面に適しているか、安定局面に適しているか。
- 感情特性も重要で、圧力や対立が生じたとき、判断が安定する人物か。組織に不安を広げるか、安定をもたらすか。
- 性格特性は一番のベースとなり、持続的に発揮される性格の傾向は何か。役割を長期的に機能させられるか。
- 行動特性でも、組織機能を実現するために、具体的にどのような行動を取る人物か。なにができるか。
これらを統合して、「組織を機能させる長の構造」を明確にします。ここまで定義して初めて、求める人物像は戦略と接続します。
5Dプロファイル診断には、事業戦略で求める人物像との適合性を分析する機能があります。
求める要件に対して、何が備わっており、何が不足しているのかを明確に言語化できるため、役員や管理職、
人事が行う経営視点での人材判断を、より客観的かつ的確に支援することができます。
5. 第四段階:構造を判断基準にする
構造化した人物像は、評価・登用・配置の判断基準になります。
評価は行います。ただし、評価の軸を変えます。
成果中心の評価から、経営の期待値への適合度を含めた評価へ。
同じ成果を出していても、次の役割に必要な構造と一致しなければ登用はリスクになります。
逆に、現在の成果が突出していなくても、戦略と一致した構造を持つ人物は、将来の中核になり得ます。
評価とは、優劣ではなく、戦略実行確率を高めるための適合判定です。
6. 結論
人的資本経営を実装するとは、経営の期待値を、人材像として構造化することです。
戦略を決めるのは経営。その戦略を実行できる人物像を構造化し、言語化し、判断基準に落とすのが人事の役割です。
組織を機能させる長の構造が定義されていない限り、登用は属人的になり、再現性は生まれません。
人的資本を資本として扱うとは、求める人材像を設計し、測定し、配分し、戦略と接続することです。
ここから初めて、人的資本経営は理念ではなく実装になります。