制度の検討は、自社の環境に合わせて「戦略接続型育成」へ再設計する

1. 問題提起に対する基本的な考え方

問題提起した「日本的育成思考と米国的の違いを認識しておかないリスクとは」に対する対応を検討してみます。

この問題の解決は、米国型の制度を否定することでも、日本型育成を守り切ることでもありません。

本当に必要なのは、自社の雇用構造、人事制度、評価の前提、異動の考え方を踏まえたうえで、育成の仕組みそのものを戦略接続型へ組み替えることです。

役員、管理職、人事が最初に共有しなければならないのは、次の一点です。
制度は、それが生まれた背景や前提条件、目的まで理解しなければ、期待した成果にはつながりません。

米国型のリスキリングやジョブ型が成果を出すのは、 職務に値段がつき、役割と報酬が連動し、労働移動(転職)が前提になっているからです。「スキルを磨けば報われる」という市場原理や評価精度があります。 一方、日本企業の多くは、人への期待、長期雇用、異動、総合能力評価を前提に運営されています。

この前提が違う以上、制度だけを入れても、同じ成果にはつながりません。
したがって、解決策の出発点は「制度導入」ではなく、自社の土壌を見極めることです。

2. まず、自社の育成思想が何に立っているかを明確にします

多くの企業では、育成の仕組みが長年の慣習で動いています。
OJTもある。研修もある。異動もある。資格取得支援もある。
しかし、それらが「何のために存在しているのか」が曖昧なまま運用されていることが少なくありません。

ここで最初に整理すべきなのは、自社が次のどちらを前提にしているかです。

  • 人に期待して育てるのか
  • 役割に必要な能力を定義して育てるのか

この違いは大きいです。
前者であれば、幅広い経験や異動を通じて総合力を育てる考え方になります。
後者であれば、将来必要な役割から逆算して、必要能力を重点的に育てる考え方になります。

問題は、ここが整理されないまま、米国型のリスキリングやスキルベース組織の概念だけが上乗せされることです。 すると、現場では「結局、何を目指して学べばいいのか」が分からなくなります。制度は増えますが、動機は生まれません。

したがって最初に必要なのは、自社の育成思想を言語化することです。

  • 人を育てるのか。
  • 役割を育てるのか。
  • 両方なら、その比重をどう置くのか。

ここを曖昧なままにしていては、どの制度も根づきません。

そして、ここで重要になるのが、自社が期待する人物像を感覚ではなく構造で把握することです。 誰を「将来の中核人財」とみなすのか。どのような思考傾向、感情特性、行動特性、仕事観を持つ人が、自社の育成思想と戦略の両方に適合しやすいのか。

これを曖昧な印象で終わらせないためには、プロファイル診断のように、性格・感情・思考・行動・仕事観を多面的にその内部構造の把握が必要となります。

3. 米国型の制度を「そのまま導入」せず、要素に分解して加工します

リスキリングやジョブ型が注目されるのは、それ自体が優れているからではありません。
変化する事業構造に対して、人材を再設計する機能を持っているからです。

日本企業が学ぶべきなのは、制度の見た目ではなく、その背後にある考え方です。 つまり、何を加工して取り入れるべきかを見極める必要があります。

加工すべき要素は大きく三つです。

  • 第一に、将来必要な役割から逆算して育成を設計する発想です。これまでの日本型育成は、目の前の業務に強くなることには優れていました。 しかし、5年後・10年後の戦略に必要な役割から逆算して育成することは、必ずしも得意ではありませんでした。ここは変える必要があります。
  • 第二に、学びを役割転換と結びつける発想です。学ばせたこと自体を成果にしてはいけません。学んだ結果として、どの役割を担えるようになったのか、 どの判断ができるようになったのかまでつながって初めて意味があります。
  • 第三に、スキルだけでなく判断基準まで扱う発想です。戦略転換期に求められるのは、単なる技術習得ではありません。 不確実性への向き合い方、優先順位の置き方、衝突時の判断、変化への適応の仕方まで含めて再設計しなければ、戦略人材にはなりません。

つまり、輸入すべきは制度ではなく、制度が成立している構造理解です。それを自社の土壌に合わせて加工したとき、初めて実務で使える仕組みになります。

ここで役員・人事がぶつかるのは、「判断基準までどう見える化するのか」という壁です。 この壁に対して有効なのが、人物を履歴やスキルだけで見るのではなく、思考特性や感情特性、行動特性まで含めて把握することです。

たとえば、5Dプロファイル診断の機能には、同じスキルを持つ人でも、戦略転換期に誰が変化対応しやすく、 誰が既存秩序を守ろうとしやすいのか、といった内部構造の違いが見えやすくなります。

4. 日本型育成の強みを残しながら、「戦略接続型」に変えます

日本型育成には、明らかな強みがあります。

  • OJTを通じて暗黙知を継承できること
  • 現場で仕事をしながら熟達できること
  • 組織への理解を深めながら役割を広げられること

これらは簡単に捨てるべきものではありません。問題は、日本型育成が悪いことではありません。戦略との接続が弱いことです。

したがって、解決策は日本型育成を壊すことではなく、戦略接続型に進化させることです。

具体的には、OJTや異動や研修を、次の問いに結びつけます。

  • この経験は、将来どの役割につながるのか
  • この研修は、どの戦略実行力を高めるためのものか
  • この異動は、どの判断経験を積ませるためのものか
  • この育成対象者は、どの中核機能の担い手候補なのか

ここが明確になると、育成は「とりあえず経験させる」から脱却します。本人も上司も人事も、 何のために学び、何のために経験するのかが分かるようになります。これが、学びを流行語で終わらせない最も現実的な方法です。

そしてこの段階になると、単に「誰に経験させるか」では足りません。誰が、どのような特性を持つから、 その役割候補として育てる価値があるのかという視点が必要になります。

この判断を主観で行うと、将来の中核候補はいつまでも「なんとなく期待している人」にとどまります。

ここを客観化する補助線として、5Dプロファイル診断のような多面的アセスメントは、育成候補者の見極めや配置判断に有効です。

5. 受講率や資格数ではなく、「戦略実行力の変化」で見るようにします

リスキリングが空回りする企業では、成果指標が誤っています。
受講率、修了率、取得資格数、満足度。これらは運営指標であって、戦略実行力の指標ではありません。

本当に見るべきなのは、次の変化です。

  • 新しい役割を担える人が増えたか
  • 戦略転換に必要な判断ができる人が増えたか
  • 異動後の立ち上がりが早くなったか
  • 既存事業と新規事業の橋渡しができる人が育っているか
  • 部門横断の対立を処理できる管理職が増えたか

この変化が見えない限り、どれだけ学びの制度を整えても、経営から見れば投資対効果が不明のままです。 逆に、ここが見えるようになれば、育成はコストではなく戦略投資として語れるようになります。

ここで重要なのは、成果を見る視点を「受講したか」から「行動と判断が変わったか」に変えることです。 その変化を捉えるには、スキル習得だけでなく、思考・感情・行動・価値観の変化も見なければなりません。 単発のスキル評価ではなく、人物の構造を多面的に把握する仕組みは、育成効果の確認や配置の妥当性を見直すうえで重要項目となります。

6. 役員、管理職、人事の責任を分けて設計します

このテーマが進まない理由の一つは、責任の所在が曖昧だからです。

「人事がやること」「現場がやること」「経営が考えること」が分離すると、結局だれも最後まで責任を持ちません。
ここは明確に各責任を定義しておく必要があります。

  • 役員の責任は、どの戦略を選び、将来どの役割と中核機能が必要になるのかを定義することです。 つまり、未来の事業構造を前提に、何を人材育成の中心に据えるのかを決める責任です。
  • 管理職の責任は、その役割要件に照らして、誰にどの経験を積ませるか、現場でどのように育てるかを実行することです。 つまり、育成を日常業務と分離せず、仕事を通じて戦略人材を育てる責任です。
  • 人事の責任は、経営が定義した戦略と、現場で必要な育成を接続し、制度・配置・評価・育成施策として実装することです。 つまり、思想を制度に変え、制度を運用に落とす責任です。

この三者が同じ言葉で語れて初めて、戦略と人材は動き始めます。

ここで5Dプロファイル診断のような仕組みが活きるのは、三者の会話を「印象」から「内部構造」に変えられる点です。

役員は戦略との接続を見やすくなり、管理職は育成候補の違いを把握しやすくなり、人事は配置・育成・評価の整合を取りやすくなります。 これは診断そのものが目的なのではなく、三者の議論を同じ前提にそろえる手段として意味があります。

7. 制度の導入ではなく、「設計思想の転換」が解決策です

結局のところ、日本企業に必要なのは、米国型制度のコピーではありません。
日本型育成を、戦略接続型へ進化させることです。

  • 人に値段がつくのか
  • 役割に値段がつくのか
  • 異動を前提とするのか
  • 専門性を固定して育てるのか
  • どこまでジョブ型を取り入れるのか
  • どこまで日本型を残すのか

この問いに、自社として答えを持たないまま制度だけを入れれば、必ず形骸化します。

一方で、自社の土壌を踏まえたうえで、どこを変え、どこを残すかを設計できれば、制度は強い武器になります。

その意味で、問われているのは制度導入の巧拙ではありません。
自社の人材思想を、戦略に合わせて再設計する覚悟があるかどうかです。

そして、その再設計を現実の運用につなぐには、

  • 「自社が求める人物像とは何か」
  • 「どの人がどの役割に適合しやすいのか」
  • 「誰をどの順番で育成すべきか」

といった問いに、構造で答えられる必要があります。
その具体化の一手として、5Dプロファイル診断のような多面的診断を組み込むことは、十分に現実的な選択肢です。

8. 結論

この問題の解決策は、米国型を輸入することではありません。日本型育成を否定することでもありません。

必要なのは、自社の雇用構造、人事制度、評価の前提を踏まえたうえで、育成を戦略接続型へ再設計することです。

学ばせたかどうかではありません。使わせたかどうかです。
受講率ではありません。戦略実行力が変わったかどうかです。

制度を輸入しても、成果は輸入できません。
しかし、構造を理解し、自社の土壌に合わせて設計し直せば、制度は初めて成果に変わります。

そして、その再設計を机上の理念で終わらせず、人物の構造を可視化し、役割との適合を見極め、育成と配置を具体化する仕組みまで持てたとき、
リスキリングも、スキルベース組織も、ジョブ型も、流行語ではなく経営の武器になります。

その具体化を支える方法として、5Dプロファイル診断は十分に検討に値します。
なぜなら、戦略接続型育成で本当に問われる 「どの人を、どの役割に、どう育てるか」に対して、性格・感情・思考・行動・仕事観の五つの視点から整理しやすくなるからです。

ここまでつながって初めて、制度は制度で終わらず、経営成果に変わります。

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