キャリパープロファイル診断ツール

キャリパープロファイル(Caliper Profile)は、1961年にアメリカで設立された人材評価・開発機関「Caliper Corporation」によって 開発された職業行動予測型の性格診断ツールです。 創設者は心理学者ハーバート・グリーンバーグ博士(Dr. Herbert Greenberg)で、臨床心理学と産業組織心理学を融合させた測定理論に基づき、 採用と人材開発の現場に特化した測定モデルを構築しました。
この診断は60年以上にわたり進化を続け、今日では21カ国の言語に対応し、400万人におよぶデータ構築とその利用に強みを持っています。 特に営業、管理職、リーダーシップ開発の領域を得意としています。

① 定義:キャリパープロファイルとは何か?

キャリパープロファイルとは、特に、「コンピテンシー」と内的動機を測定し、最も適切な職種、適職を診断するアセスメントツールです。 全21の診断の指標を利用しています。ビッグファイルの性格診断とは違う手法を取り入れています。 全ての質問は、自己認識型の選択式で構成され、受検時間は約70分〜90分。個々の特性と、それが特定の職務要件とどのように整合するかを可視化するレポートが生成されます。

② 解説:キャリパー診断の理論的構造と測定内容

キャリパープロファイルは、大きく以下の3カテゴリに分類された21の性格特性と内的動機づけ要因を測定します。

③ 特徴(長所):キャリパープロファイルの強みと実務価値

キャリパー診断の強みは、単なる性格把握を超えて、「パフォーマンス予測」と「適職分析」に優れている点です。以下に主な長所を詳述します。

主な特徴一覧

④ 短所・課題:キャリパープロファイルの限界と懸念点

一方で、キャリパープロファイルにはいくつかの本質的な課題や制約が存在する。特に以下のような点に注意が必要である。

⑤ 結論:SHL職業適性検査

SHL職業適性検査、とくにOPQは、「職場における行動傾向の予測」に最適化された、世界的に広く使われているアセスメントツールである。
その目的は明確であり、業務において「どのように振る舞う傾向があるか」「チームや役割にフィットするか」を判断することである。
したがって、採用選考・管理職選抜・配置転換・後継者計画など、企業の人事意思決定において「即戦力としての行動のフィット感」を数値で可視化するという点においては、極めて有用である。
ただし、このツールには以下のような限界や誤解されやすい性質が存在する。

SHLは「行動傾向」を測定するが、「なぜその行動になるのか」は測定しない

SHLのOPQは、受検者がどのような行動パターンを職場で示しやすいかという傾向を可視化する。 しかし、その背後にある性格的動機、感情のパターン、思考の構造、価値観、ストレス反応、成長過程などについては何ら明らかにされない。 たとえば、「他者主導に従いやすい」というスコアが出たとしても、

このような動機や意味構造についてはOPQでは判断できないため、フィードバックの際に「なぜこのような行動傾向があるのか」といった内省支援や、育成的な活用には限界がある。
すなわち、診断結果による行動傾向のフィードバックは得られても、その背景にある個人の内面を理解し、成長支援につなげるためには別の補完的アプローチが必要である

「行動プロファイル」と「実際の成果や能力」は別物である

OPQのスコアは、あくまで「~しがちである」「~に傾向がある」ことを統計的に予測するものであり、実際にその行動を取るかどうか、成果に結びつくかどうかまでは直接示さない。
たとえば「創造性が高い」という傾向が出ても、その人が創造的成果を出しているかどうかは全くの別問題である。 このように、予測モデルとして一定の妥当性はあるものの、「できそうに見える」ことと「実際にできる」ことのギャップが可視化されるわけではなく、現場での誤解を招くことがある。 性格心理学の分野では、「一般的で抽象的すぎる表現」は実証性が乏しく、実務での過信を招くとして避けるべきとされている。

SHLが示す「コンピテンシー」は、性格傾向(OPQの33特性)に基づいて推定された「行動の可能性」であり、あくまで「期待される行動傾向」として定義されている。 ただし、その内容は抽象度が高く、簡単には理解・運用できない。
SHL自身が公式に「SHL Universal Competency Framework(UCF)」というフレームワークを定義しており、 OPQの結果をこのコンピテンシーにマッピングする仕組みを提供している。

SHL Universal Competency Framework(UCF)の構造
UCFは、以下の3層構造で構成されています。

  1. 8つのコンピテンシー要因(General Competency Factors)
  2. 20のコンピテンシー次元(Competency Dimensions)
  3. 96の具体的なスキル(Skills)

まずは、順番通りに解説してみたいと思う。
最初に、8つのコンピテンシー要因名。

番号 8つのコンピテンシー要因名(英語) 日本語訳 定義
1 Leading and Deciding リーダーシップと意思決定 他者に方向性を示し、意思決定を行い、責任を引き受ける姿勢。
2 Supporting and Cooperating 支援と協力 他者への共感・協力・支援を通じて良好な人間関係を築く力。
3 Interacting and Presenting 対人・発信 他者に影響を与え、効果的に情報を伝える能力。
4 Analyzing and Interpreting 分析と解釈 論理的思考を用いて情報を処理し、分析・解釈する能力。
5 Creating and Conceptualizing 創造と構想 新しいアイデアやコンセプトを生み出し、将来を計画する力。
6 Organizing and Executing 組織化と実行 タスクを計画し、リソースを管理し、効率的に業務を遂行する力。
7 Adapting and Coping 適応と対処 ストレス・変化・困難な状況に柔軟かつ効果的に対処する能力。
8 Enterprising and Performing 挑戦と成果志向 野心的に挑戦し、目標達成に向けて努力し成果を出す姿勢。

20のコンピテンシー次元は、全8の領域に分けて整理してみた。

20のコンピテンシー次元 定義
1.1 意思決定と行動の開始 自信を持って行動を起こし、責任を持って意思決定を行う。
1.2 リーダーシップと監督 他者を導き、目標達成に向けてチームを効果的に指導する。
2.1 人との協働 他者と協力し、良好な人間関係を築く。
2.2 原則と価値の遵守 倫理的な基準を守り、組織の価値観に従う。
3.1 関係構築とネットワーキング 他者との関係を築き、維持する。
3.2 説得と影響力 他者を説得し、影響を与える。
3.3 情報の提示とコミュニケーション 情報を明確に伝え、効果的にコミュニケーションを行う。
4.1 文書作成と報告 情報を整理し、明確な文書や報告を作成する。
4.2 専門知識と技術の応用 専門的な知識や技術を実務に応用する。
4.3 分析 情報を分析し、問題解決に活用する。
5.1 学習と調査 新しい知識を習得し、情報を調査する。
5.2 創造と革新 新しいアイデアを生み出し、革新的なアプローチを取る。
5.3 戦略と概念の形成 戦略的な思考を行い、概念を形成する。
6.1 計画と組織化 目標達成のために計画を立て、リソースを効果的に配置する。
6.2 結果の達成と顧客期待の満足 目標を達成し、顧客の期待に応える。
6.3 指示と手順の遵守 指示や手順に従い、業務を遂行する。
7.1 変化への適応と対応 変化する状況に柔軟に対応し、適応する。
7.2 プレッシャーと挫折への対処 ストレスや困難な状況に効果的に対処する。
8.1 個人の仕事目標と目的の達成 個人の目標を設定し、達成に向けて努力する。
8.2 起業家精神と商業的思考 ビジネスチャンスを見出し、商業的な視点で行動する。

3番目は、96の具体的なスキル(Skills)である。その一部を提示する。

コンピテンシー要因 コンピテンシー次元 具体的なスキル
Leading and Deciding Deciding and Initiating Action 意思決定を迅速に行う
困難な決定を下す
役割と責任を定義する
他者を動機づけ、権限を与える
リーダーシップを発揮する
責任を引き受ける
Leading and Supervising チームを指導する
パフォーマンスを監視する
フィードバックを提供する
目標を設定する
進捗を追跡する
成果を評価する
Supporting and Co-operating Working with People 他者を理解する
多様性を奨励する
倫理的に行動する
信頼を築く
チームワークを促進する
協力的な関係を維持する
Adhering to Principles and Values 組織の価値観に従う
誠実さを示す
倫理的な判断を行う
責任を持つ
透明性を保つ
公正に行動する
Interacting and Presenting Relating and Networking 関係を築く
ネットワークを拡大する
他者と効果的に交流する
協力関係を構築する
信頼関係を育む
対人関係を管理する
Persuading and Influencing 説得力を持つ
影響力を行使する
交渉を行う
意見を主張する
他者を巻き込む
コンセンサスを得る
Analysing and Interpreting Writing and Reporting 文書を作成する
報告書をまとめる
情報を整理する
明確に伝える
適切な文体を使用する
読者に合わせる
Applying Expertise and Technology 専門知識を活用する
技術を適用する
新しい技術を学ぶ
ツールを効果的に使用する
技術的な問題を解決する
技術的な知識を共有する
Creating and Conceptualising Learning and Researching 新しい情報を学ぶ
研究を行う
知識を拡張する
情報を分析する
学習機会を探す
継続的に学ぶ
Creating and Innovating 新しいアイデアを生み出す
革新的な解決策を提案する
創造的に考える
改善を追求する
変化を促進する
柔軟に対応する
Organising and Executing Planning and Organising 計画を立てる
タスクを整理する
優先順位を設定する
リソースを管理する
進捗を監視する
期限を守る
Delivering Results and Meeting Customer Expectations 結果を出す
顧客の期待に応える
品質を維持する
効率的に作業する
フィードバックを活用する
サービスを向上させる
Adapting and Coping Adapting and Responding to Change 変化に適応する
柔軟に対応する
新しい状況に対応する
変化を受け入れる
新しい方法を試す
変化を管理する
Coping with Pressures and Setbacks プレッシャーに対処する
ストレスを管理する
失敗から学ぶ
回復力を持つ
批判に対処する
困難を乗り越える

最後は、性格傾向(OPQの33特性)で定義した行動コンピテンシーの定義を紹介しよう。

SHLの性格特性(OPQ) 対応するコンピテンシー(行動) 該当コンピテンシーフレームワーク領域
社会的大胆さ(Social Boldness)プレゼン力、対人影響力Interacting and Presenting
創造性(Innovative)問題解決力、革新志向Creating and Conceptualizing
頑固さ(Conventional)柔軟性の低さ(改善対象)Adapting and Coping
忍耐強さ(Relaxed vs Tense)ストレス耐性、情緒の安定性Coping with Pressures and Setbacks
社交性(Outgoing)チーム内の調和づくり、協調性Interacting and Presenting
自信(Confidence)意思決定力、自立性Leading and Deciding
競争心(Competitive)達成志向、自己主張Achieving and Doing
責任感(Conscientious)自己管理、規律のある行動Supporting and Cooperating
分析性(Analyzing)論理的思考、データ解釈Analyzing and Interpreting
慎重性(Cautious)リスク管理、事前準備Adapting and Coping
外向性(Extraverted)対人関係構築、チーム推進Interacting and Presenting
内向性(Introverted)集中力、観察力Analyzing and Interpreting
他者志向性(Altruistic)支援意欲、奉仕性Supporting and Cooperating
支配欲(Controlling)リーダーシップ、方針設定Leading and Deciding
現実主義(Pragmatic)計画遂行力、手堅さOrganizing and Executing
想像力(Imaginative)ビジョン創出、構想力Creating and Conceptualizing
柔軟性(Flexible)変化対応、臨機応変な判断Adapting and Coping
目標志向(Goal Focused)達成への粘り強さ、集中Achieving and Doing
意志の強さ(Determined)困難突破力、継続力Coping with Pressures and Setbacks
誠実さ(Honest)倫理観、信頼構築Supporting and Cooperating
楽観性(Optimistic)ポジティブな影響力、挑戦志向Adapting and Coping
慎み深さ(Modest)自己抑制、裏方的貢献Supporting and Cooperating
理論志向(Theoretical)抽象思考、構造化力Creating and Conceptualizing
実行力(Action Oriented)すぐに行動に移す力Organizing and Executing
変化志向(Change-Oriented)改革推進力、改善志向Creating and Conceptualizing
計画性(Planning)段取り力、スケジューリングOrganizing and Executing
多様性志向(Tolerance)文化受容力、差異理解Supporting and Cooperating
リスク回避傾向(Risk Avoidance)安定志向、安全配慮Adapting and Coping
権威志向(Authority Respect)上司への服従、規範遵守Supporting and Cooperating
探求性(Curiosity)新しいことへの関心、学習意欲Creating and Conceptualizing
主張性(Assertive)自分の意見を伝える力Interacting and Presenting
緻密性(Detail Consciousness)注意深さ、抜け漏れ防止Organizing and Executing
持続性(Persistence)困難に粘り強く取り組む力Coping with Pressures and Setbacks

現代の変化の早い時代において、SHLは個人の成長支援・変容設計には使えない

その理由は簡単で明確である。 SHLは「静的な傾向の測定」であり、「この人がどう成長できるか」「どのような支援が有効か」というような成長支援のプロファイル構築がない。 行動傾向を定義づけてはいるが、 行動傾向は定義されているが、その行動が生じる背景にある「why」――すなわち動機、思考、感情、仕事観などとの構造的関係については、SHLの中核的なツールであるOPQやUCFでは明示されていない。 SHL全体として補助的資料や理論背景は存在するものの、「なぜその行動が起こるか」という因果的・構造的な説明は体系的には提示されていない。
人材開発に必要な「自己理解」「行動の見直し」「変容の道筋」などを支援する設計は主目的ではなく、 SHLの主な適用領域は「今のこの人が、現職務にどの程度適合しているか」というフィットの可視化にある
つまり、現在のVUCAの時代においては、個人も組織も変化を前提に行動せざるを得ない。 このような変化の激しい環境において、個人の変化や成長を支援する仕組みとしては、SHLはそのままでは対応が難しい。 これは、現代の人材開発戦略における実務的な限界点でもある

SHLは極めて実用的なツールであり、数値で行動傾向が示され、視覚的で導入もしやすい。 だが、「なぜその行動を取るのか」「どうすれば変えられるのか」「どう育てればいいのか」といった内面的要因へのアプローチや育成支援に関する情報は、 OPQやUCFの範囲ではほとんど提供されていない。 特に、SHLのコンピテンシー定義は性格傾向との統計的対応に基づくが、それが示す行動の背後にある動機や価値観は測定対象に含まれておらず、不明のままである
たとえば、社会的大胆さ(Social Boldness)な性格特性の人は、なぜ、プレゼン力と対人影響力のコンピテンシーなのか?
すなわち、行動の「なぜ」に関わる内面的要因(動機・感情・思考構造など)への洞察が得られないため、育成指導や動機づけ支援には活用が難しい。
したがって、SHLは「現状の配置・選抜」には有効だが、「人を育てる・変える・支援する」といった内面重視のマネジメント支援には限界がある。 (以上は筆者の私見を含みます)