矢田部ギルフォード性格検査(Yatabe-Guilford Personality Inventory:通称YG性格検査)は、
アメリカの心理学者ギルフォード(J.P. Guilford)の理論を基に、日本の心理学者・矢田部達郎が日本人向けに改良・標準化した性格検査です。
主に学校・企業・医療・矯正施設などで広く活用されており、「行動傾向」や「パーソナリティ特性」の理解に用いられる代表的な心理検査のひとつです。
1959年に初版が公開され、教育・産業・医療・矯正など幅広い分野で、現在も使用されています。
①定義:YG性格検査とは何か?
YG性格検査は、個人の性格傾向を12の尺度で測定し、全体的なパーソナリティのプロフィールを描き出す質問紙法の心理検査です。 元々はギルフォードの因子分析に基づいた性格構造モデルを日本語化・文化適応し開発されたツールです。
【12尺度の構成】
- D:抑うつ性(気分の沈みやすさ)
- C:回帰性(依存・未熟な反応の傾向)
- I:劣等感(自己評価の低さ)
- N:神経質(情緒の不安定性)
- O:客観性の欠如(主観的判断への傾き)
- Co:協調性の欠如(対人摩擦の傾向)
- A:活動性(行動の活発さ)
- S:のんきさ(神経過敏さの逆尺度)
- G:思考性(理知性・内省的傾向)
- T:支配性(リーダーシップ傾向)
- R:社会的外向性(社交性・積極性)
- Q:性格的円満さ(性格の安定・穏やかさ)
これらのスコアから、9種の性格パターン(「安定型」「劣等感型」「反抗型」など)を分類し、 特定の性格傾向やストレス傾向を可視化しています。
②背景:YG性格検査が評価される理由
戦後の日本において、教育現場や企業内の人材選抜・指導において「行動特性」や「内面傾向」を客観的に把握する必要が高まり、
その中でYG検査は、比較的短時間で多くの情報が得られることから導入が広まってきました。
YG検査の背景には、Guilfordの人格因子論があります。ギルフォードは因子分析によって、人間の性格が複数の独立した傾向の組み合わせで構成されていることを示しています。
矢田部はこれを日本文化に適合させて標準化しています。
特徴的なのは、定型的な“性格タイプ分類”に重点を置いており、ビッグファイブのような連続的モデルとは全く異なっています。
これは、当時の日本の教育現場と企業での即時活用を意図した設計が伺えます。
また、MMPIなど欧米発の心理検査に比べて、日本人仕様の「日本の文化的文脈に配慮した設問構成」として信頼されてきた歴史があります。
③特徴(長所):YG性格検査の強み
- 短時間で実施できる:120問で20分程度。団体受検や大量処理に向いている。
- 尺度構成が多面的:情緒、対人、認知、行動の複数側面から分析できる。
- プロフィール分類が実務向き:「安定型」「神経質型」など9つの性格類型に分類され、活用が直感的。
- 歴史的蓄積と実績:長年の使用実績があり、経験的な活用知見が豊富。
④短所・課題:YG性格検査の問題点
YG性格検査は、日本において長年利用されてきたツールであり、簡便さと経験的妥当性によって広く普及しました。 しかし、現代心理学や人材評価の観点から見ると、以下のような本質的な限界と問題点が存在しています。
- 診断モデルが古典的:1950年代の人格理論に基づいており、近年の標準であるビッグファイブ理論との整合性はない。そのため、 現代の性格診断の研究ではほとんど引用されなくなってしまった。
- 項目が平易すぎる:受検者が意図的に「良く見せる」回答をしやすく、操作可能性が高い。
- 結果が静的で育成に不向き:資質の傾向は示すが、成長の方向性やスキル獲得の示唆は少ない。
- 差別的な印象を与える可能性:「神経質型」や「反抗型」など、ラベリングがネガティブに捉えられるリスクがある。
- バイアスに弱い:質問が素直すぎるため、社会的望ましさ(よく見せたい)バイアスが強くかかりやすい。 「協調性がある」と答えたくなる傾向を補正しづらい。
- 行動やパフォーマンスとの関連が薄い:YGは性格傾向の診断にとどまり、職務適性や成果予測には用いにくい。 行動科学や実績データとの統合がない。
⑤結論:YG性格検査の活用の限界
YG性格検査は、日本で広く普及した歴史ある性格診断ツールであり、「全体傾向のスクリーニング」や
「初期の個人理解」には有効であったが、VUCA時代においては、YGは前世代の理論に基づいたツールである。現代の心理学とは整合しない。
YG性格検査は前世代の人格因子論に基づいているため、現代のパーソナリティ心理学においてはほぼ使われていない。
現在はビッグファイブが国際的な標準となっており、再現性・汎用性・理論的根拠の面でYGは完全に劣っている。
特に、YGの12因子の多くは因子間の相関関係が強すぎて、因子の独立性に乏しいという批判がある。
「因子分析によって構造的に整理されている」とする割には、構造の透明性に欠ける。
たとえば、「抑うつ性(D)」と「神経質(N)」は高い相関を示すことが多く、明確に分ける心理的意味が不明瞭である。
YG性格検査は、「あなたは人に親切ですか?」「あなたは緊張しますか?」のような表面的かつ予測しやすい質問形式で構成されている。
そのため、回答者が「よく見られたい」「評価されたい」と思った場合に、意図的にポジティブな回答を選びやすくなる。
YGは「性格類型の目安」であり、「評価・判定の道具」ではない。理論的・実証的・倫理的限界がある。 そのため、YG単体で使用することはお勧めしない。他の適性検査の補助的ツールとして使うのであれば良いかもしれない。(以上は筆者の私見を含みます)