有名な適性診断を実際に使用してみて分かったことを整理しました。このSPI3 for Employees 診断ツールはSPI3の拡張版?として普及しており、
多くの企業で従業員の適性診断として導入されています。
しかしながら、実際の運用においては様々な課題が存在します。
まずは、診断ツールの目的や仕組みを理解し、本来の運用についても記述してみたいと思います。
① 定義:SPI3 for Employees 診断ツールとは何か?
SPI3 for Employeesとは、リクルート社が開発した「SPI3」の従業員向けバージョンです。
新卒採用や中途採用に用いられるSPI3と同様に、性格特性を測定する適性検査ですが、主に従業員の配置・育成・人材活用の参考資料として活用されることを目的にしています。
現代の職場では、従業員一人ひとりの個性や価値観を理解し、個々人に合った対応や働きかけが求められています。
また、従業員自身も、自分のやりがいや強みを正しく理解することで、納得感のあるキャリア形成につなげることが重要になっています。
そこで、従業員の「性格」「志向」「仕事観」を可視化し、自己理解と適材適所の判断材料を提供してます。
この診断ツールは、社員の行動傾向や価値観を客観的に把握することで、企業が配置・育成・リーダー選抜・キャリア支援などに活かすことができるようです。
② 解説:SPI3 for Employees 診断ツール導入されている背景
企業は近年、従来の一律的人事評価による配置や教育研修ではなく、「個人に合わせた」配置などが求められるようになっています。
このような要望に対応するため、社員の個性・性格傾向を可視化する適性診断の必要性に対応しています。
次のような人事課題・要望に対応しています。
- 社員の能力を最大限に活かす配置戦略
- 部下育成における上司のマネジメントのあり方
- キャリア面談やフィードバック面談時の補足資料
- エンゲージメント向上による離職防止の資料
- 次世代リーダー育成・選抜の基礎資料
性格検査部分では「粘り強さ」「社交性」「慎重性」「柔軟性」などを測定し、職場行動の傾向や対人関係のスタイルが数値化されます。
すなわち、SPIやこれまでの適性診断は、「適性がある」か「適性はない」だけの診断でしたが、そに加えて、何に対して「やりがい」を持っているのか? を、診断するようになりました。
③ 特徴(長所):SPI3 for Employees 診断ツールの評価される理由
- 診断結果が3種類用意されています:本人用資料と上司用資料(マネジメント支援)、人事用資料があります。
- 志向と仕事観が診断されます:志向とは思考特性を意味しており、仕事観は仕事における価値観を意味しています。 志向だけでは「どのように働くか」は見えても、「なぜ働くか」は分かりません。逆に仕事観だけでは「何を求めているか」は分かっても、「どう動くか」は見えてきません。 この2つの診断で働き方の意味が理解できるようになります。
- Web版で診断結果がはやく確認できます:結果がタイムリーで得られます。
- 配置や人材育成に活用しやすいです:特性や強み、弱みが数値で診断されています。
- 数値結果がシンプルで比較しやすいです:診断結果が豊富にグラフ化しているのでパッと見効果があります。
- 個別面談の支援ツールとして役立ちます:キャリア面談や1on1面談において、主観だけに頼らず客観的なデータに基づいた対話が可能になります。
④ 短所・課題:SPI3 for Employees 診断ツールの抱える深刻な構造的問題
- SPI3と同様に回答操作が極めて容易です:受検者は、上司も人事も共有すると分かっているので、受検者が自分をよく見せようとする意図的な回答を行う可能性があります。
その結果、診断結果の信頼性が揺らぐ危険性があります。受検者の心理的安全性を確保して実施していないので、「本音を出せない評価ツール」になっています。 「企業が望む答え」を推測し、模範的な回答を演じることが簡単にできます。 - 性格特性の表面評価に偏る危険性があります:診断結果では、性格特性が数値と短いラベル、概要解説のみ表示されます。
しかし、この数値やラベルが「人間の複雑な行動特性を単純に評価したものではない」ことを理解せずに運用されるケースが多く見られます。
たとえば、「慎重性が低い」と出た社員に対して、「計画性がない人」「信頼できない人」といった短絡的な印象を持たれたり、 「協調性が低い」とされた社員に対し、「チームワークが苦手な問題児」といったネガティブなラベリングがなされています。 詳細な説明や解説は一切ありません。具体的なアドバイスもありません。「抽象的な表現より、具体的な表現をしましょう。」程度です。
日本人はなぜか、以前に流行した「血液型性格診断」のようなレッテル診断と誰にでも通用するアドバイス(結果)を好みます。 一旦、レッテルを貼るとその修正は困難です。 - 性格診断はビッグファイブをベースにしていない:ビッグファイブは世界的に最も信頼性、正確性、再現性がある診断の理論です。そのため、性格診断が最適に実施できるわけです。 5因子(ファイブの診断因子)ですべてが測定されるからこそ、「望ましさバイアス」「極端反応」などを補正できます。 診断因子数が少なくなると回答の歪み(IRT検証やコロンバッハα検証など)に気づけなくなります。
- ガイダンスが有料です:SPI3 for Employees 診断ツールの使用の目的、運用面、活用面のガイダンスが有料のため、受検者やその上司が全員診断の特徴を理解していません。
診断結果と実際の行動の背景や職場環境との関係性を考慮せず、表面的なスコアとラベリングだけで人物を“決めつける”という非常に危険な運用が現場では起こっています。人事コンサルタントとして、感覚値として8割程度かと感じています。 さらに、良くないのが、これらの誤解が放置されています。また、従業員視点で現場分析してみると、「自分はそういうタイプだから仕方ない」と思い込んでいます。 自己成長や適応努力をあきらめてしまう「性格固定化バイアス」につながっている感がありました。
SPI3はあくまでも、行動傾向の「傾向値」であり、「正しい・間違っている」「良い・悪い」を決めつけるものではありません。 運用者のリテラシーや解釈力によって、診断結果が人材活用にも、逆に抑圧にもなり得るという点が最大の課題です。
⑤ 結論:SPI3 for Employees 診断ツールは全てが成績評価でフィードバック
行動の背景や職場環境との関係性を考慮せず、表面的なスコアとラベリングだけで人物を“決めつける”という非常に危険な運用が現場では起こっている。
と、言う問題定義を「短所・課題」で出しきた。
性格や志向は誰かの影響や何かの影響や環境によって醸成される性質を持っている。たとえば、もともと外向性が高く明るく元気であっても、上司やメンバーと相性が最悪の場合、でしゃばることを止めて内向的になり、
コミュケーションも上手く取れなくなってしまう。
そんなタイミングで診断した結果、「内向性が強い」と診断されてしまう。
仕事に軸をもっている「ひと」、覚悟を決めて仕事をしている「ひと」でない限り、「ひと」は意外に弱い面が多い。
心理学のながでも、行動心理学は行動の要因やファセット(サブの診断因子)、深層心理学は必須で、「ひと」が企業や組織で仕事をしている限り、社会心理学も必須である。
すなわち、どのような環境で仕事をしているのか、どのような上司と人間関係があるのか、どのような仲間と仕事をしているのか?
など影響を理解しておかないと性格診断は危険である。
SPI3 for Employees 診断ツールは、性格心理学のビッグファイブを利用している記述がない。
そのため、志向や仕事観と性格との因子分析がない。性格との紐づけが全くない。3つの次元はあるが、それぞれバラバラである。
もちろん、適性診断だけでこれらの診断をすることは非常に困難である。
そのため、診断結果による意味の理解や使用方法については、数値やラベリング、概要解説だけでは危険であることを認識しておくことである。
診断結果はとても見やすいし、デザイン性は優れているが、その半面、具体的なフィードバックもアドバイスもない。
別で譬えるなら、ファッションセンスが高いが、人格は問題。言い過ぎたかもしれないが、人格は高いが、ファッションセンスはゼロ。
よりは良いのかもしれない。(すべて個人の意見)
⑥ 提案:SPI3 for Employees 診断ツールの改善とは
適性診断のサイエンスとなる根拠が一切公開されいないので、心理学統計の信頼性は不明である。受検者数も採用企業も国内トップであるが、 それと診断の信頼性の因果関係は全くない。また、ガイダンスはあるが有料なので、受検者がどの程度ガイダンスを受けて受検しているかデータがない。
- 受検目的と活用方針を明確に伝えるべきである。何かの意図を完全に理解しない限り人は懐疑的になる。懐疑的な心理で受検をする前提を理解せよ。
- 受検者の心理的安全性を守ることが必要である。
- 診断結果で、次世代リーダーを選定し、診断結果で昇格評価をするは適切ではない。
- 診断結果の解釈支援が必要である。診断結果の資料を読むと、なんとなく理解したように錯覚を起こした。よく読んでみると疑問が深まる。自分の「強み」は何か?
たとえば、「コミュケーション」が非常に高い。これが「強み」なのか?、また、協調性が弱い。これが「弱み」なのか? では協調性のある「ひと」にならないといけないのか?
具体的なフィードバックはないし、具体的なアドバイスもない。ガイダンスを受ければこれらが解消するのか? しないのであれば、フィードバックは最低限の機能に入れないければ受検の価値は下がる。 - 企業で求める人材は1種類ではないはず。統計的には正解でも、実際の適応は別であることを人事は認識して使用することが重要だ。
自分の特性を知ることは価値があり重要である。それをどのように活かすのか。上司と共有、人事と共有する意味や意義が本人に理解されなければ査定、人事評価ツールとしての機能でしかない。のではないだろうか。 (以上は筆者の私見を含みます)